50kmの小海中学校横公園エイドでは、水を入念に被り、持ってきていた芋けんぴをポリポリしながらこの先の作戦を確認。
この先は、間違いなく暑い。
日影も少ない。
野辺山ウルトラマラソンは、馬越峠が難関と言われていますが僕はこの50km~74kmの馬越峠の手前のゾーンをどうカバーするかが重要だと思っております。
僕の走力では、馬越峠を全部走る戦略は取れない。馬越峠の登りは「捨て」のゾーン。
そして、馬越峠の登りを捨てるには、これから挑むゾーンをしっかりとカバーすることが重要だと考えております。
2017年の灼熱の野辺山では、このゾーンで暑さにやられてマーライオンと化してしまい大幅に時間をロスしてDNFしてしまった。
マーライオン化を防ぐには、
「飲み物をがぶ飲みしないこと」
「暑さは体を濡らして気化熱で冷やすこと」
この2つだ。2017年の教訓をついに生かす時がきた。
ペース表を見ながら、補給計画や注意事項を確認をしているとランナーさんが「今日は過去イチの暑さになるかもしれないみたいですね」と話しかけてくださった。
僕は「馬越峠まで行けば、日陰もあるし、気温も落ち着いてくると思うんで、馬越峠までが勝負ですね!」と答えた。
「あと半分です」「楽しんでいきましょう!!」
なんだか、相手の方とお話しているんだけど、まるで自分に言い聞かせているようだったなとエイドを出て走り出してから思いました。
そう。僕も、恐れていたのです。2017年野辺山の再来を。
ついに暑さが、牙をむく
ついに太陽が昇り、日差しが一段と強くなってきた。
日陰のない、恐怖のゾーン。
体が熱を持ち、頭はボーっとしてくるけど、リラックスしたペースで54kmの川又バス停エイドを目指す。
やべーなぁ。暑いなぁ。
脳裏には、2017年の野辺山ウルトラマラソンのことがチラついておりました。
2017年の野辺山。
僕は、今走っているこの辺りから熱中症ぽくなり、テンパって飲み物をがぶ飲みして、それをマーライオンの如く吐きまくり、大量の時間を費やして馬越峠の入り口まで辿り着いたけど、そこでリタイアを選択してしまった。
・・・まだ、制限時間までは時間があった。
収容バスに乗って、窓の外を見ると、これから馬越峠に挑むランナーが続々と来ている。
「何故、僕は回復を信じてコースに残らなかったのか」
「まだ時間はあったのに」
激しい後悔に襲われました。しかも後悔している割には「もうあんなに苦しまなくて良いんだ」と変な安堵感まである。
こんな自分は、嫌だ。
速くなくていいし、別に完走出来なくてもいい。
ただ、ゴールするのか、制限時間に引っかかるのか、どちらの結果でも構わないので最後までやりきりたい。
結果にばかり目を向けず、最後までやりきる自分でいたい。
やりきれれば、僕はそれで満足するのだから。
そんなことを強く思った2017年野辺山ウルトラマラソンでしたが、僕は苦しみの前には脆い。
この後もウルトラマラソンに参戦を続けましたが、自分に負けてレースを放り投げてしまったりすることが何度かあり(チャレンジ富士五湖の118kmで何度かやってしまいました)、その度に情けない気持ちになっておりました。
自分の脆さに負けてしまう事もあれば、踏ん張れる時もある。
一体、どっちが本当の自分なのだろうと思う。
ランニングに限らず、僕はタフなメンタルを持つ人間ではないというのが結論だ。
でも、タフなメンタルではないけれど、それから目を背けずに直視して向き合ってきたつもりだ。
これまでも、多分これからもそうだろう。
今日も、脆い自分が顔を出すに違いない。
出てきても、まるで近所の人に挨拶するが如く「こんにちは!いい天気ですね!!」と対応できるかどうかがポイントだ。
それくらい、脆い自分、ネガティブな自分は、僕にとって身近な隣人なのだから。
そんなことを考えつつ、走っていたら川又バス停エイドに到着。
長く感じた折り返しゾーン
川又バス停エイドで水を被り、北相木村役場へ向けてスタート。
あちい。あちいよ。
キツいけど、歩き倒す訳にはいかない。
てゆーか、ここは走る。折り返しのエリアを抜けたら、滝見の湯まではマジでずっと登り。しかも日照り。
暑さで頭に熱がこもっている感じがする。
スライドする先行するランナーさんが「ファイト!」「ナイスラン!!」と声を掛けてくださる。
「ナイス!」「ありがとう!」と僕も答えるけど、多分涙目だったに違いない。
キツさに、そして声を掛けてくださるありがたさに。
なんとか走れているけど、危険水域の暑さだ。
もうすぐ北相木村役場に着くな・・・という頃に先行する奥さんとスライド。
思ったより奥さんと差がついていないな・・・・!!
これはうれしい。奥さんはペースダウンをほとんどせずにウルトラを走り切るので、僕もそれなりに粘れているということだから。
戦えている。まだ、イケる!!
到着した北相木村役場では、水を被りまくって体を冷やし、
この日一番の美味しさだったパインスティックを食べ、
次のエイドステーションを目指して出発!!
折り返しゾーンの復路に入っていきます。
粘って粘って・・・進んでいきます。
どうにか折り返しゾーンをクリアしましたが、暑さ、疲労、脚の張り、、、どれもこれも危険信号を発しています。
思わず「やべえな・・・・キツすぎる」と口にしてしまいました。
自らを客観視した果てに生まれたもの
北相木の折り返しゾーンを過ぎると、今度は滝見の湯に向かっての登り勾配。
登りかどうか、いうよりとにかく暑い。
「このまま暑くなるとどうなるんだろう?」
「また吐きまくってしまうんだろうか?」
「あんな苦しい思いはしたくないな」
「なんか体も重たいし、言うこと聞かないし」
暑さのせいで、ボーッとしてきた頭の中で響く自分の声は、びっくりするくらい弱気なことばかりだった。
「よくやったよ。チャレンジ富士五湖118km完走して疲労も回復していないのに、よくここまで来たよ」
「お前にしては上出来だよ。」
「ほら、お前さ、暑さに弱いんだよ。多分。」
「別に、止めたっていいんじゃね?」
ついにネガティブこばすけの悪魔の囁きが始まってしまった。
・・・まだだ。確かにキツいけど、キツいんだけど、お前は俺なんだけど、俺じゃない。
「ほら。暑いだろ。野辺山過去最強クラスの暑さとかさっきも近くにいたランナーが言ってたじゃん」
わかってる。暑いけど、それは知らない。それに適応して進んでいくスポーツなんだよこれは。
まずいまずいまずい。
どう考えてもネガティブになっている。
今すぐにでもなびいてしまいそうな自分がいる。
岩本さんの「完全攻略ウルトラマラソン練習帳」に「自らを客観視せよ」という記載があったことを思い出す。
客観視客観視・・・・
「うーん、この人、マジで暑そうだし、キツそう。止めた方がいいんじゃね?」
違う!客観視出来ていない!!
もっとだ!もっと他人事な感じで自分を見ろ。
自分で自分を客観視するんじゃなくて、何か別のキャラクターだ。俺じゃダメだ!
今の自分をすごく他人事のように見てくれて、かつ笑えて、的確なアドバイスをくれるヤツを作り出すのだ。
!!
??「はーい。こんにちはー。苦しそうですねー。まず3回、深呼吸~。吸って~吐いて~。」
??「はいはいはい。これから、私があなたに心に誓っていただくことを3回唱えて頂きまーす。」
??「はーい、唱えてくださーい。唱えてくださーい。」
??「私は、野辺山を、完走する。はい。これを3回でーす。1回じゃダメですよー。3回でーす。」
その謎の男は往年の名ドラマ、3年〇組金〇先生のような風貌をしている。
??「はいはいはい。申し遅れました。私はあなたの野辺山ウルトラ引率担当の坂満金八でーす」
・・・やべえ。暑さとキツさと持ち前の妄想力でとんでもねえ奴生み出してしまった。
その名も坂満金八。野辺山だけに坂満。口調は完全に本家と同じ。
坂満「はーい。暑いですかー。先生も暑いでーす。暑いからってー、水をがぶ飲みするとー、嘔吐まっしぐらでーす。せいぜいコップ3分の1位の量を飲んで、それでも飲みたければ口を漱いでくださーい。あと、体を冷やすには気化熱でーす。水で体を濡らしてくださーい。濡らしてくださーい。」
坂満「疲れてますねー、いいですかー、人生は疲れたとか言って止まっていても周りは待ってくれませーん。時間も止まって待ってはくれませーん。ちょっと先生いい事言いますよー、ここ大事ですよー。疲れやネガティブな考えはー、脳が糖質不足で運動を止めさせようと信号を出しているという説もあるようでーす。はーい、この話を聞いてボケっとしなーい。すぐにー、そのポケットに入っているジェルを摂りなさーい。すぐにー、摂ってくださーい。知っているだけで行動しないのは、知らないのと一緒でーす。」
坂満「はーい。南相木村役場に着きましたー。先生はー、ここで失礼しまーす。最後にあなたにー、贈る言葉でーす。」
坂満「いいですかー、遠い未来ばかり見てはいけません。目の前の一歩一歩を積み上げた先に未来があるのでーす。人生は山あり谷ありでーす。容赦ない日照りの日もあれば、心地よい天気の日もありまーす。コントロールできないことに一喜一憂しても消耗するだけでーす。はい!ここ大切なこと言いますよー。あなたはー、あなたにー、出来ることに集中してくださーい。集中してくださーい。目の前の一歩を積み上げていくこと、それを続けていくことを愚直にやっていってくださーい。それが、先生からあなたへの贈る言葉でーす」
・・・・・。
「ブッ」
思わず吹いてしまった。我ながらバカすぎる。さすが妄想族ランナー。走力はアレだが、妄想力はなかなかだ。
ありがとう坂満先生。
最もツラかった北相木の折り返し終わりからの5kmは坂満先生の並走のおかげでどうにか走り切れた。
かなりの時間を要することも覚悟したが、どうにか関門閉鎖時刻に対する貯金もキープしたまま来ることが出来た。
僕の好きな言葉で、こんな言葉があります。
人生は近くで見れば悲劇だが、遠くで見れば喜劇である
チャップリンの言葉より引用
今回の坂満先生はすごくバカな妄想だったけれど、妄想でもして楽しまないと乗り切れる状況ではなかった。僕は、そうやってピンチを楽しめる時には良いパフォーマンスが発揮できることが多い気がする。
そう思うと、人生も、ウルトラもほんの少しの遊び心が大切なのかもしれない・・・・
確かに、僕が熱中症っぽくなってヘロヘロ走っているのは、近くで見たら悲劇だけど、遠くで見たら喜劇だっただろう。
坂満先生というゲームチェンジャーの登場によって大ピンチを乗り切った僕。
身体的なピンチは変わらないが、心さえ揺るがなければどうにかなる。結果はどうであれ、楽しめる。
次は野辺山ウルトラマラソンの名物、馬越峠へ。
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