ついに最終関門の川上村原公民館を出発。
もう残された力は少ない。
そりゃそうだ。僕ごときがここにこのペースで来てしまったのだから。
いや、ペースもだけど距離だってもう87kmも走ってきた。
こんないい景色の中、応援されながら走っているだけの贅沢な時間も後13km。
最後の戦いが、今始まる。
ついに来た「アイツ」
「よくここまできたな、お前。」
「もう全歩きでも完走出来るよ」
「もうボロボロじゃん。その辺座って30分位休んでもいいんじゃね?」
来たな、ネガティブこばすけ。
ああ、俺よくやったと思うよ。本当に。
「だろ?もうそんな歯食いしばって走んなくてもさ。全歩きでも13時間は切れる。お前の自己ベストは更新だよ」
知っている。知っているけど、自己ベストとかもだけどそんなことより今できる、ベストのことをやり通したいんだよ俺。
「いやいや、もうそれ以上やったら故障するよ。歩いとけって」
そうかもしれない。でも今日は行ってみるよ。
ちょっと、お前は静かに俺を見守っててくれ。
俺はお前を否定しない。
ダメダメで怠惰で、無駄に饒舌な言い訳上手の僕はいる。
そいつもいるけど、もう少し踏ん張ってやろうとしている自分もいる。
どっちの自分も、一緒にゴールテープ切ろうぜ。
這いずるように進んで行く
周りにランナーの数は少なく、走って歩いてを電柱1本毎に切り替えながら走っていく。
本当にここからがキツかった。
もう脚が痛いとか疲れたとか、腹減ったとかそんなことしか考えていなかった。
走る所はしっかり走るようにしていたけど、もうペースが上げられない。
ハムストリングスが痙攣し始めて、走ると派手に攣りそう。
歩いては走り、歩いては走り・・・・・。
自動販売機でエナジードリンクを買おうと思ったら、疲れすぎてバカになっていたのか間違えてボタンを押してゼロカロリーのコーラを買ってしまい一人で「俺は今、カロリーが欲しいんだぁぁ!!糖質欲しいぜ!!」と思わず言ってしまう(周りにランナーがいなくて良かった。恥ずかしいですね)。
この事件を「90km手前ハッピードリンクショップの悲劇」と名付けようと思います(笑)
こんなアホをやりつつ、ダラダラ登りを進んで行き91kmを過ぎたあたりでLINEの通知が。
そこには驚愕の事実を告げる内容が記載されていた。
くーるー、きっとくるー
LINEはこの日応援ナビか何かを見て応援してくれていた母から。
「○○ちゃん(奥さん)、90km地点で数分差!すごい差詰まっているよ!」と。
一瞬驚愕したけど、ま、当たり前かと思う。
あの人、富士五湖118kmで最後の船津の坂も全走りだし、馬越峠も半分くらいは走るもんな。
かたや僕は今電柱走りでキロ8~9。上げてみようにも上がらない。
電柱走りですら、自分を鼓舞してやっている状況でした。
「想定内。俺盛大にタレ散らかしているから多分追いつかれるよ」と返信。
その後、なんか追いつかれるの癪なので走ってみるもやっぱり痙攣。
ゆっくりペースで電柱走りを積み重ねていくしかないか・・・・・。
確実に進んではいるものの、コースは残酷な位まっすぐで進んでいる感じが一切しない。
山もきれいだし、空気もうまい。俺の脚は、体はこんなだけど楽しいぞと思っていたら・・・・。
「いた!!追いつけた!!」
聞きなれた声が後ろから聞こえました。
最強のライバルと共に
その確実に来る感じは貞子かトンベリか。
確実に僕との差を詰めて詰めて、ここで捉える感じ。
後半にそんなに走れるとかすげぇな・・・・。すごい!
まだ11時間切り狙えるから行って来たら?と言いましたがあまりそれには興味がないようで、今までの道のりの話やらしながらそこからは一緒に進んで行きました。
しかしまぁ何度も書くけど、あれだけあった差を詰めてくるんだから後半の強さすげぇな。
足取りもしっかりしているし。
多分僕が走れたら、一緒に行ってギリ11時間台でゴールなんだろうなこの人。
「あと3km」「あと2km」・・・・・。
まるでベイスターズの最終イニングの如く、一つのアウトが遠い。1kmが長い。
なんなら塁にランナーが溜まって、逆転のピンチですらあるような状態。
僕の脚も、さらに言う事を聞かなくなってきた頃見えてきた看板。
「こんな明るい時間にここ来るなんて、信じられないねぇ。」と奥さんが一言。
いや、それを言うのは俺だから!!あなたはやれるでしょ!!
一日、かなり攻めて走っていたので後半が不安で仕方なかったのでここまで来れてすごいホッとしたのを覚えています。
ゆっくりですが残り1kmは走り、ゴール手前では大勢の方から「おかえり!」「お疲れ!!」と声かけて頂き、毎回ですが感謝の気持ちでいっぱいになって走っていました。
僕が日本で一番好きなガソリンスタンドを挙げよと言われたら迷わず挙げるエネオスを過ぎて角を曲がるとゴールが見えてきました。
コロナ禍前のチャレンジ富士五湖秋、先月のチャレンジ富士五湖もゴールすることは出来ず、今回もダメで、かつ楽しめないようなことになったらウルトラマラソンをやること自体しばらく距離を置こうかとすら思って挑んだ野辺山ウルトラマラソン。
良かった。本当に良かった。
好きなものを好きでいられて本当に良かった。
安堵と感謝と歓喜にまみれた、最高のゴールでした。
道中声を掛けて頂いたボランティアの方、応援の方、一緒に走ったランナーさん、関わった全ての皆様・・・・ありがとうございました!
2022年野辺山ウルトラマラソン 最終話「驚愕、苦悶、葛藤、安堵、感謝、歓喜」 完
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