大井川を眺めつつ、あまりにシンプルな景色に意識も内へ内へと向かって行きつつあったしまだ大井川マラソンも後12kmまで来た。
島田駅近くのアピタやジャンボエンチョーの看板もあれだけ遠くに見えていたのが、だいぶ近くなってきた。
進んでいないような気がしたけど、やっぱり気持ちを切らさずに動き続けていれば、進んでいるのだ。
こうして書くと「気持ちを切らさないで動き続ける」なんてことは容易いことのように思える。
これが、とてつもなく難しい。僕のような人間には。
ただでさえ難しい所に、向かい風、河川敷コースの飽き、30km走ってきた疲れが襲い掛かってきた。
この恐怖の三連コンボに打たれ、ペースはジリジリと下がってきたが、どうにか5:00/kmを死守している。
「どのように終わるかが重要なんだ」
そんなことを思いながら、ついにしまだ大井川マラソン名物の大エイドにたどり着いた。
噂の大エイド
噂の大エイドは・・・・本当にすごかったです。
僕は小麦アレルギーの影響で置いてあるもののほとんどは食べれないのでチキンラーメンの匂いを吸い込んで補給するという熟練の技を繰り出しましたが、食べれる人はきっと食い倒れ出来るレベルで楽しめるのではないかと思いますw
そんな最高に美味しそうで楽しい大エイドでは果物と飲み物を一口頂いて、第2折り返しへ。
結構「小麦アレルギーで、食べれないんです」と言うと、「あら、かわいそう」と言われることが多いですが、見たり匂いを嗅いだりするだけで満足できるし、ワイワイしている所を見ているだけでこっちも元気になるので全然OK。
食べれないことよりも「かわいそう」と言われることの方が嫌だったり。
まぁでも言っている方からしたら悪意なく言っているのだから、それも笑顔で受け止められる大きな器の人間になりたい。
そんなことを思いながら、ワイワイしている大エイドで元気をチャージして進んでいきました。
自分との対話
大エイドの賑やかさからどんどん遠ざかり、また静かな河川敷の道をひたすら進んでいく。
さすがに脚も疲れて来た。
頭の中で、
「歩きたい」
「ちょっとくらい、歩いても良くね?」
「ちょっと歩いても、その後走れば3時間30分切れるよ」
「てゆーか、タイムとかどうでも良くね?」
「ゴール出来ればさ、いいのよ」
悪魔・・・じゃなかったネガティブこばすけの声が聞こえている。
この声に負けて歩いてしまう時もあるし、そうでなく踏ん張れる時もある。
僕は、どうしたいのか。
僕は、踏ん張れた僕が好きだ。
「自分が好き」と言うと目を顰められることもあるが、僕は迷った時や苦しい時は、「どっちを選択した自分が好きか?」で決めることにしている。
だったら、もう少し踏ん張ってみよう。
もう少し、もう少し踏ん張ろう。そんな気休めを積み重ねながら進んでいく。
キツイ。30~40kmの平均ラップはおそらく5:00/kmをわずかにオーバーしている。
それでも、脚は止めたくない。
脚を止めるな、呼吸に集中しろ、応援を力に変えろ、大会を楽しめ、この状況を楽しめ・・・。
過去最速の2.195kmと永遠のライバルのサブ3.5達成。
すごく長い、歩きたい自分とやり切りたい自分との自問自答を繰り返し、第2折り返しを通過。
キツいものの、どうにか体は動いている。
一定のリズムを刻みながら、ついに40kmを通過。
この辺りで奥さんとスライド。奥さんはこのまま行ったら3時間30分切り自己ベスト更新だ。すげえ。
僕が走り出したことがきっかけで「私も走ってみようかな」と走り出した奥さん。
元々ソフトテニスで知り合ったのですが、ハッキリ言ってテニスの腕前はワタシが100枚上手(自画自賛ww)。
・・・・だったのですが、ランニングは奥さんのほうが粘り強く走れる。
第2話の「Since 2011」で初フルのちばアクアラインマラソンでDNFしたことを書きましたが、その時同じく初フルだった奥さんは5時間30分位で完走している。
奥さんは、恐ろしく粘り強く、ウルトラマラソンの後半でもペースが落ちない。
そして、一番尊敬している部分は「放り投げないこと」だ。
僕は最高にカッコ悪く、大会を放り投げてしまったことが何度かある。そのことに後悔することもあるが、それでも繰り返してしまう弱さがある。
奥さんには、それがない。
秘訣を聞くと「早く終わらせるしかないから、前進あるのみ!」とか、変な回答しかないけど(僕は「早く終わらせたい」などと思ったら、リタイアすればいいじゃんと思う方です。)、ネガティブな自分に負けて放り投げてしまう僕からすると、粘り強く物事に取り組める奥さんは本当にすごいと思うし、尊敬している。
僕も永遠のライバルが身近にいて、しかも自己ベスト更新に挑んでいるのだから、最後までしっかり走り抜けよう。
時計を見ると、4:00/kmでラストの2.195kmを走り切れば3時間24分台だ。
残りの力を振り絞って、スパートをかける。
今日一番のスピードで大井川の景色が視界の後ろに流れていく。
ついにゴールゲートが見えてきた。
力を振り絞って走ったけど、残念ながら4:00/kmでは走れなかった。
でも、4:30/km前後でラストの2.195kmを走ってきたようだ。これは今までのフルで最速のラスト2.195kmだ。
2011年のハマスタで聞く以来のDJケチャップさんの声とフルマラソンとは思えない自分の荒れた呼吸を聞きながら、ゴールに飛び込んだ。
ゴールの向こうに見えたもの
ヘロヘロで飲み物を頂き、グビグビと飲み干しながらコースを見ると奥さんが帰ってきた。
奥さんもついに3時間30分切り達成。すごい・・・。
僕も当初は出走自体が怪しい状態だったけれど、終わってみれば体の変調もなく走れ、しかもいい感触で走れ、タイムも3時間25分なにがしのセカンドベスト。
しかも最後の2.195kmはペースを上げて走ることが出来た。
今日の感じだと、3時間15分への挑戦をもう一回するのも面白いかもしれない。
それにしても不思議だ。
「もうこのコース飽きたぜ!」などとあれだけ思っていたのに、帰りの車で大井川を渡る橋を走っている時には、あの大井川沿いのコースに対して何とも言えない愛着を感じました。
「もう走るの勘弁!歩きたいぜ!!」などと思っていたのに、帰りの車の中で今日の報告会を奥さんとしていると、なんかもう走りたくなっているし、さらに過酷な挑戦になるであろう3時間15分切りへの挑戦もしてみたくなっている。
こんな感じで、ランがなければ行かなかったかもしれない所を好きになったり、懲りずに挑戦を続けたり。
長い時間、自問自答しながら走ったり。
走って、自分と向き合うだけの時間を過ごすなんて、最高に贅沢な休日の過ごし方な気がする。
そんなことを思いながら、東名高速の向こうに雲の間からわずかに見える富士山と虹を眺めながら帰路に着くのでありました。
2023年しまだ大井川マラソン 最終話「ゴールの向こう側に見えたもの」完
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