南相木村役場エイドを出発して、馬越峠を目指す。
結構この辺りは暑さを一番感じたゾーンでしたが、私設エイドの方から氷を頂けたりして、それのおかげでかなり快適に道中は進んでいくことが出来ました。
・・・が、前半はあれだけ快調に走れた脚もだんだん怪しい感じに。
懸案の右脚の大腿四頭筋は違和感を発し始め、
それを無意識にかばっていたのか、左脚は本格的に攣りそうな感じに。
まぁでも、こんなことは織り込み済み。
むしろ、ここまでこうならなかったということが奇跡なのだ。
そんな風に思いながら、馬越峠へと向かっていく。
2015年、滝見の湯にて

陽が高くなってきて、坂道も険しくなってきて、なかなかに険しい道中。
滝見の湯の手前の巨岩をボーッと眺めて進んでいきながら、自分のある変化に驚いていた。
時は10年前。
僕は10年前、初ウルトラでここを走っていた。
当時は滝見の湯が72kmの部のゴール地点だった。
もうボロボロの状態で、滝見の湯エイドに入り72kmのフィニッシュしたランナーを称えるアナウンスを聞きながら、ゴールしてやりきったという表情で完走メダルをかけて歩いているランナーさんを見ながら、自分はヘロヘロで座ることも覚束ない感じで補給食を食べて、呆然と座り込んでいる。
あまりのキツさに呆然自失、精神崩壊を起こしていた。
なんでここで僕はゴールじゃないんだ。
・・・わかってる。100kmに申し込んだのは他でもない。僕だ。
僕のゴールはここじゃない。行かなきゃ。でも、でも、もう立ち上がって進んでいくのは辛すぎる。
この先にある馬越峠とかいうやつ、キツいとか聞いているけど、ここまででもう十分にキツかった。
こんな苦しい思いをしたことは、これまでにない。
呆然と座り込んでいる脳内に、2つのフレーズがリフレインしている。
「ここはフィニッシュ地点なんだけど、僕のフィニッシュ地点ではない。」
「そして、僕のフィニッシュ地点は28km先にある。」
なんか、その至極当たり前の事実が受け入れられなくて、そして残りの距離の膨大さに絶望していた。
そんな僕を察して、奥さんが「さ、行こう」と促してヨロヨロと滝見の湯を出発したことをよく覚えている(当時は一緒に走ってました)。

別に今もすごく強くなったとか、速くなったとかはあまり感じないけど、さっき通った67kmの部のフィニッシュ地点である南相木村役場を通っても、何も感じないし動揺しなくなっていることがここ数年では当たり前のように思っていたけど、急に10年前のことを思い出して振り返っていたら、もしかすると、ちょっとは強くなっているのかもと思った。
しかし、10年後の現在もかなりキツい。
だけど、あの時程はまだキツくないし、何よりあの時の僕は100kmという距離をまだ経験していない。
今の僕はあの時の僕よりは、経験がある。イケる。見ていろ、10年前の俺よ。
いやー、あの時の僕が10年後もここ走ってることを知ったらどう思うだろうな。
多分「バカなの?」「ドMなの?」と言うかもなぁ。
そんなことを考えながらニヤニヤしていると、ついに今回の新たな刺客が姿を現した。
シン・馬越峠

今回コースが変わった馬越峠へ向かうコースは、ちょうど10年前に滝見の湯エイドからよろよろ出た所をすぐに右折していく。
馬越峠は、良くても電柱走り。だいたい全歩き。
今回は脚に懸念があるので、当然全歩き。
補給をしながら黙々と登っていく。
うーん。結構斜度がエグイかも!そして木陰が少ないから、暑さも感じるかも!
でも、頂上までにエイドステーションが二か所あったので、そこで水被りも出来たので本当にありがたかった。
「なるほど。シン・馬越峠は斜度がエグイのと、日差しを食らう感じね・・・」
そして馬越峠と言えば絶景。


スタスタ歩きながら、絶景を楽しむ。絶景を楽しみつつも、下り坂に備えてザックの中の食べ物も食べる。

ソイジョイを食べながら、今回の補給事情を振り返り。
僕は小麦アレルギー持ちである為、味に変化を付けたかったり、エイドで食べれるものがなかった時の為に多めに補給食を携行している。

今回は上記の中で、OS-1、メダリストのジェル4本、「エネルギーアップ」と書いている謎のジェル、塩熱サプリ、柿ピー、ソイジョイしか食べず、他はエイドステーションのバナナやオレンジを頂いた。
結果的に、結構な数の補給食を100km運んだだけとなったけど、今回は意図的に携行している食べ物になるべく手を出さずにエイドステーションのもので対応することにしてみた。
・・・・というのも、先月のチャレンジ富士五湖では空腹感とか喉の渇きもないのにずっと飲み食いしていて、関門アウトとなった本栖湖に着いた時点でほぼザックの中のものを食べつくしていた。
食べつくした意図としては「走れないから、糖質不足じゃね?」だったのだが、一向にペースは上がらず。
燃えていないのは糖質と脂質ではなく、僕の魂だったというオチ。
あとは、なんか食べ過ぎで体が重かったというのもあるかなと。普段のジョグではあそこまで食べないし、ウルトラでもあそこまでは食べない。
・・・なんか、食べすぎだったかも・・・・(;^_^A
そんな富士五湖での反省を踏まえて、惰性で食いまくるということはせず、少なくとも1時間半で1回は何か食べることにしてみた所、だいたいエイドステーションの果物でお腹が満たされて走れた。この日、バナナとオレンジをどれだけ食べただろうか・・・・。
食べてエネルギー入れないと走れないでしょというのも事実だけど、食べすぎも良くないようだ。
富士五湖での反省はこんな所でも生きている。これは反省・・・というよりも食い意地張りすぎなだけかもですが・・・。

ついに頂上まであと500mとなった。
さぁ、登り切ったら最後の長い下り坂だ。ここをしっかり走れるか。川上村原公民館(84.6km)まで走り切れるか。
体を見積もる。結構ヤバい感じだけど、どうにか持ってくれるのではと思う。いや、持て。持ってくれ。
最早正確なファクトベースの見積もりというよりも、願望ベースで状態を見積もっている。
自分の見積もりがファクトベースでないことは理解していたけど、もうファクトは脚の崩壊が十分すぎる位に知らせてくれるので、例えファクトベースでなくとも、信じることが重要なのではないかと思った。
そんな謎思考のまま、ついに馬越峠頂上に到着。

いつもだけど、馬越峠の頂上は「やったー!着いたー!!」という気分になれる。
ここでは数分椅子に座って、補給をじっくり。さっき食べたソイジョイだけでは足りん。フルーツもしっかりと頂く。
水をしっかり被って気合いを入れて、いざ下り坂へ。
風が最高に気持ちいい
この日、第二話で勝負所であり不安でもあるポイントと挙げた「3か所の長い下り坂」もついに最後の下り坂となった。
ここをドンと走れれば、もう勝ったも同然。
一抹どころか、一億位不安がありますが、まぁ、行くしかないっしょ。
エイドを後にして、走り出す。
!!
あ・・・やべえかも。常に攣りそうな左脚の内転筋はより反抗的に、両脚の大腿四頭筋もメリメリ。
懸案の右脚内転筋も違和感発してる・・・・。
「うあああ」
「くっ・・・」
「ぐぬぬ・・・」
静かな馬越峠の下りに、僕の足音と痛みに耐えるうめき声が響く。
そんな感じでぎこちない感じで進んで行くと、後ろから聞きなれた足音と声が!
来た!ついに奥さん追いついてきた!!
「お先~!!がんばろう!!」
颯爽と下っていく奥さん。
第一話の冒頭のシーンです。僕は第一話で披露した謎の替え歌を脳内でこしらえつつ、坂道を下っていく。
※本ブログ「2025年野辺山ウルトラマラソン振り返り 第一話「波乱の大会直前。万全、絶対、順風満帆・・・そんなものはない」より引用※
この日脳内でひたすら流れていた脳内BGMは先日レイトショーで観た、劇場版「名探偵コナン 隻眼の残像」主題歌の「TWILIGHT!!!」だった。
どんどん離れていく奥さんを見送りつつ、脳内BGMの替え歌を作りながら僕も馬越峠を下っていく。
行かない行かない行かないで
足りない足りない走力が
止まらない止まらない止まらないで
終わらない終わらないレースはないわ
刹那、走り続けよ
TWILIGHT!!!
高原特有の冷たさを含んだ風が吹きつける。
今まで暑くて火照った体に、冷たさを含んだ風が最高に気持ちいい。
馬越峠の下り坂は、最高にキツくて、最高に景色が良くて、最高に気持ちいい。
だんだん脚の軋みや痛みにも慣れてきて、スムーズに動くようになってきた。
こうなれば、こっちのものだ。

下り坂の途中にあるエイドステーションで一呼吸置いて、最終関門川上村原公民館へ。
破滅(カタストロフィ)の胎動

僕にとって馬越峠の下りは「ゴールの為に絶対に走れないといけないゾーン」。
多少脚がビキビキなっていようが、しんどかろうが、攻めていかないといけないと思っている所。
耐えて耐えて、どうにか千曲川までやってきた。

千曲川の橋の所では、地元のご婦人達の熱烈な応援を頂き、なんとかヨレヨレ進んで行くも、もう懸案事項の右脚も、それを庇ってきたと思われる左脚も、どちらも痙攣を始めて、体、脚のそこかしこに痛みも出始めて、ついに陥落の時を迎えそうになっていた。
テーピングでここまで持ってくれたこと自体が奇跡のようなものだ・・・・。
第二の自分、ネガティブこばすけが耳元で再び囁く。
「もう、全部歩いてもゴール出来る。それでいいんじゃないか?」
思わず時計を見る。
確かに・・・全て歩いてもフィニッシュは出来る。
でも、まだそれを選択する時じゃないし、それをしに来たんじゃない。
全走りは出来なくても、半走りは出来る。
大切なのは、その時出来る最善を尽くすこと。
ファイティングポーズを崩さない事。
最後まで前のめりでいることなのではないのか。
・・・どうやら、テーピングで脚は固めていたけど、心の方がフニャフニャだったようだ。
でも、これこそが僕の課題。ランナーとしても、人間としても。
こういう場面で、この弱っちい自分とどれだけ対峙していけるか。これが本当に面白い。
・・・心を、気合いで、今一度固めろ!
言うことを聞かなくなってきた脚とへなちょこな心に、最後の気合いを注入し、ヨレヨレの状態ながらも、どうにか最終関門、84.6km地点の川上村原公民館エイドに到着した。
2025年の野辺山ウルトラマラソンもついに最終局面。
最後まで、前のめりで僕はいれるのか。
最後まで、大会を楽しめるのか。
・・・やってやろうじゃないの!
そんな気持ちで、最終関門を出発した。
2025年野辺山ウルトラマラソン振り返り 最終話「野辺山を初めて走ってからの10年とこれから」に続く。
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