色々逡巡することはあったけれど、とにかくスタートした。
スタートしたからにはベストを尽くす。
この日イケそうなペースで、呼吸が弾まない程度のペースで着々と進んでいく。
走り出してみた感じ、脚に何ら問題はない。
よし・・・このままだ。このまま行ってくれ。
普段見ることの出来ない野辺山ならではの景色を楽しみつつ、そう脚に祈りながら進んでいった。
息を飲む絶景。これを見たかったんだ。

とにかく野辺山は景色がいい。
空気もいい。
初めて出場した2015年から、僕を魅了してやまない。
もちろん、すんごいタフなコース。
過去には胃の内容物全部出したんじゃねえかと思う位リバースしてリタイアしたこともあったり、ゴール出来ても悶絶不可避な感じ。
でも、これが良いし、楽しいんだ。

景色を楽しみながら進んでいくと、やがて不整地に突入。
・・・・ここを無事に乗り超えられるかどうかが、この日完走出来るかの分水嶺だと踏んでいた。
僕の不安要素

僕の前半戦における不安要素は3つ。
- 不整地での脚の負荷に、痛めた右脛が耐えられるか
- コース最高地点から23km林道ゲートまでの不整地の下り&稲子湯までの一部不整地の下りに右脛が耐えられるか
- 稲子湯を出た後の急登のち50km地点小海小学校までの下りに右脛が耐えられるか
ここで痛みが出たら、この日は無理だろう。
不整地に入って、登りも問題なく登っていける感じ。心肺機能はそこまで低下していないようだが、時々不整地ゆえの「ズルッ」と滑るのが脛に響く感じがある。
・・・大丈夫かな。
この不安は残念ながら的中し、「ズルッ」を何度かするうちに違和感が出てきた。
突き付けられる現実。

コース最高地点に到着した頃には違和感が痛みになってきていた。
・・・・こんなに早く痛みになるとは。
見通しが甘かった。甘すぎた。やっぱりバカな選択をしたのか。
そんなことも思ったけど、まだ反省するには早い。ベストを尽くそう。ここからは下り。
下りも懸案事項のひとつではあるけど、登りの時と動きが変わるから、変化があるかも!
祈るような気持ちで下り坂を駆け降りる。
・・・。
・・・・・・。
20km過ぎ。
・・・・・・・・・。
あ、これはやべーかも。
そう思った頃に第一関門の林道ゲートに到着した。

タイムだけなら、かなり良い感じ。
体力も余裕ある感じ。エイドのフルーツも美味しい。
・・・しかしだ。
右脛がもう、ヤバい。
いやいや、苦痛にも波があるだろうし、まだなんとかなるかもよ?
そう言い聞かせ、エイドを出て走るも痛みはどんどん強くなり、無意識のうちにかばっていたのか左脚まで痙攣し始めてきた。
「ラスト10km位で、どうしても完走したい時にだけ使うつもりで持っていた痛み止めを使うか・・・?」
一瞬迷ったけど、使わないことにした。
痛み止めを使うツケは学生時代に嫌というほど思い知った。
おっさんになってから始めたランニングでは一度も使っていない。使うつもりもなかったのに、今回は持ってきてしまっている。
追い詰められて、自分を見失って、自分の流儀を曲げてしまっていることに腹が立った。
こんなものを俺は使わない。
ランニングは僕にとって素晴らしい趣味だ。多分人生を変えた趣味だ。大事な趣味だけど、それも僕の一部に過ぎなくて、やっぱり生活もあるし、家族もいるし、仕事もある。それらが調和を取れている状態だからこそ、ランニングを楽しめる。野辺山ウルトラマラソンを楽しめる。
学生時代、痛み止めを使って、痛みガン無視で1年近く無理をしてスポーツをやり続けて、体をボロボロにしてしまったことがある。痛み止めを飲んでいない授業中やバイト中は痛くて痛くて地獄だった。
痛いから、いつもイライラしていたし、体調が悪くて人に迷惑をかけることもあった。そんな感じだから試合で結果が出ても、うれしい中にも後ろめたさのようなものがあった。
しかも卒業して、スポーツを止めた後もしばらく痛みが引くことはなかった。
痛みという信号を薬で押さえつけて無理やりやると、とんでもない感じで体を痛めるし、治るのにも時間がかかるということを当時学んだ。
・・・だから、痛み止めは使わないと決めているのに。
こんなもの、持っているだけで自分への冒涜だと感じた。
なんか、ダサいことしてしまったな。
これ以上、自分を冒涜したくない。だから、痛み止めは使わない。
使わないと前へ行けない状況なら、潔く止める。
現状、歩行しても痛いし、数m走っただけで痛い。
これでは続行は不可能と判断し次のエイド、稲子湯でのリタイアを決意。
今回は、自分の「野辺山ウルトラマラソンに出走したい」という強い願望が、「きっと痛くならずに走れる」「ゴールした後も問題なくトレーニングを再開出来る」という、状況からしてありえないような幻想を生み出してしまい、その幻想の虜になってしまった。
幻想の虜になった結果、自分の流儀に反することまでしようとしていた。
現実を見ないとダメだ・・・・・。
まずは脚を治して、ウォーキングとジョグで立て直していこう。
ケアだってサボりがちだった。これも今後はしっかりやろう。
そして、トレーニングがろくに出来ていない状況で大会に出るのはダメだ。そんなのわかっているのに、やってしまった。愚かなことをしてしまった。
弱いなぁ俺。現実を見る強さがない。現実から目を背けて幻想に憑りつかれてしまった。
何も強さは走力とかそういう力だけではない。現実から目を背けないのも強さだよな・・・。
俺は弱い。強くなろう。故障を治して体を鍛えなおそう。そしてまたここに帰って来よう。
そう思って空を見上げたら、ここ最近で一番晴れ晴れとした気分になった気がした。

エピローグ

その後稲子湯でリタイア。稲子湯で入浴しさっぱりし、大会会場へ戻る。
脚はズキズキ痛んだけど、車に戻ってアイシングして安静にして過ごした。
奥さんがゴールする時間になったら、ゴールまで迎えに行った。
なんか、ゴールする人、まぶしいなぁ。
かっこいいんだわ。本当。
僕も、そうなりたい。
今回、野辺山で教訓を得たように思う。
それは、
「現実を正しく見定めて、受け入れて、正しく判断する勇気を持ちなさい」
「体に対して、謙虚であれ」
「体の声を聴いているつもりが、頭の声を聴いているなんてことはないかい?」
「強い願望は、時に自分を惑わす幻想を生み出す」
今回、ゴール出来なかったことは残念だったけど、今後長くランニングを楽しんでいくのに、すごく良い学びが出来たような気がする。
これを生かすかどうかは、これからの僕次第。
まずはしっかり脚を治して、出直し。
そんなことを思っていたら、奥さんが帰ってきた。
奥さんは本当に強い。トレーニングも強い。
そんな尊敬する身近なウルトラランナーであり、最強のライバルこと奥さんの今年の野辺山の道中の話を聞きながら、帰路につくのでありました。
・・・・5/19(火)、レース二日後。
稲子湯の硫黄泉が効いたのか、アイシングが効いたのか、湿布攻めが効いたのか、あれだけ痛かった患部は想定よりも腫れることもなく、張りがあったり、痛みがあるにはありますが、激痛とかそういう感じではないので思ったよりもマシな状態。
当面は走らず休養し、張りや違和感がなくなったらウォーキングから再開していくつもり。
焦ってやって慢性化すると、ろくなことないですから。
現実をしっかり見て、受け入れて、一歩ずつです。
速く走れるとか、長距離走れるとかの強さも欲しいですが、故障やケアなどのセルフマネジメントもしっかり出来る強さも身に着けて、また野辺山にチャレンジしたい。
強くなりたい。
いや、強くなります。
2026年野辺山ウルトラマラソン敗戦記 後編「野辺山で得た教訓」完

コメント